ピロリ菌除菌の慢性胃炎への保険適応拡大について

2013年2月25日

ピロリ菌除菌について ~慢性胃炎への保険適応の拡大~

平成25年2月21日ついに委縮性胃炎や化生性胃炎などのヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)に起因した慢性胃炎の患者さんに対しても除菌療法が保険適応となりました。

これらの胃炎は胃がんの発生母地になると考えられており、ピロリ菌感染のない人は胃がんが少ないことが疫学的に言われています。除菌を行うことで胃がんになる危険性を3分の1程度にまで下げることが可能と考えられています。

 

そもそもピロリ菌とは1983年にオーストラリアのウォーレンとマーシャルがその培養に成功し、その後の多くの研究でピロリ菌が慢性胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどの原因になっていることがわかってきました。日本でピロリ菌に感染している人はおよそ6000万人といわれており、特に50歳以上の人で感染している割合が高いとされています。

 

そのため胃潰瘍・十二指腸潰瘍については、日本でも平成1211月より、ピロリ菌の除菌療法(1次除菌)が保険で認められるようになりました。さらに平成198月1次除菌不成功例に対する2次除菌療法が保険適応になりました。多くの患者さんが潰瘍の再発から解放されました。平成226月、胃・十二指腸潰瘍以外にMALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する内視鏡的治療後の患者さんに保険適応が拡大しました。その際慢性胃炎は保険適応とならなかったのですが今回ようやく保険での除菌が可能となったのです。

 

筑波メディカルセンター病院勤務時より、ピロリ菌除菌は積極的に行ってきました。地域がんセンターという病院の性格上、胃・十二指腸潰瘍に限らず、胃MALTリンパ腫の除菌治療や無効例への放射線治療、また当時は内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などを積極的に行っていましたので再発のリスクを減らす目的で除菌治療を行ったものです。平成12年11月から平成21年12月までに1次、2次治療を合わせて479症例の除菌治療を行いました。

また平成22年10月クリニック開院後も日本ヘリコバクター学会 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医として積極的に除菌治療を行ってきました。平成25年2月現在の除菌者数は638症例となっています。 

すでにメディカルセンター勤務時代の症例数を超えているわけですが、実は胃・十二指腸潰瘍の患者さんは295症例で、残り343症例の患者さんは慢性胃炎の患者さんです。当院ではすでに発がん予防を目的として多くの患者さんが自費にて除菌を受けられてきました。日本ヘリコバクター学会のHP(http://www.jshr.jp/)を見ていただければわかると思いますが茨城県における認定医の数はまだそれほど多くはありませんし、自費での除菌を積極的に行っている医療機関も少なかったのが現状でした。そのため健診施設なども含め、他の医療機関から除菌治療を依頼されることが多かったのだと思います。これからは多くの医療機関で積極的に除菌が行われ、将来日本の胃がんが激減することを期待したいものです。

ただし除菌を受けるにあたっては以下の注意が必要です。
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対して除菌を行う際には、ヘリコバクター・ピロリが陽性であること及び内視鏡検査によりヘリコバクター・ピロリ感染胃炎であることを確認すること。すなわち(1)及び(2)の両方を実施する必要があります。

(1)ヘリコバクター・ピロリの感染を以下のいずれかの方法で確認する。

迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法、抗体測定、尿素呼気試験、糞便中抗原測定

(2)胃内視鏡検査により慢性胃炎の所見があることを確認する。

内視鏡検査には抵抗がある方もいらっしゃると思いますが、是非検査を受けていただければと思います。また以前に検査を受けて慢性胃炎を指摘されている方も最近受けていないのであればお勧めします。

内視鏡検査で慢性胃炎の所見、胃の粘膜のやせ(萎縮性変化)、腸上皮化生などの変化の有無やその程度、範囲を知ることで胃がんのリスクをある程度予測することが可能です。また除菌時に胃がんがないことを確認することが必要です。除菌治療は発がん予防という点では有益ですが、リスクをゼロにすることはできません。「除菌したからがんの心配もない、もう胃カメラも受けなくても大丈夫!」これは大きな勘違いで、そのことで胃がんの発見が遅れてしまっては除菌の意味がありません。

 

特に慢性胃炎の中でも鳥肌状胃炎の患者さんはご本人にしっかり説明して必ず除菌治療を受けていただきました。

鳥肌状胃炎;胃前庭部(胃の出口に近い部位)に1mmほどの小さな隆起が多発、胃の粘膜が一見とり皮のようにみることからそう呼ばれる。比較的若い人に多く、スキルスがんなどの若年性胃がんの発生にかかわると言われており、同世代の人に比べ発がんのリスクが60倍と言われている。

また除菌後も必ず定期的な胃内視鏡検査を受けてもらっています。実際これまでにスキルスがんにみられる印環細胞癌などの悪性度の高い胃がんが除菌後にみつかったケースが3例ほどありました。いずれも早期がんで事なきを得ました。鳥肌状胃炎に限らず、除菌後も発がんのリスクはあること念頭において定期的な胃カメラを受けていただければと思います。 

当院でも経鼻内視鏡を導入しておりますが嘔吐反射が少ないため比較的楽に検査が可能です。次回も経鼻で希望される患者さんも多く定期的な検査を受けるうえで有用です。

 

ではヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌療法の実際は?

これまでの胃・十二指腸に対する治療と同じで胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害剤と2種類の抗生剤を1週間、1日2回朝夕で内服していただきます。1次除菌ではペニシリン系抗生剤であるアモキシシリンとマクロライド系抗生剤であるクラリスロマイシンを使用します。これらの薬に対してアレルギーのある方は治療を受けることができません。

特にペニシリン系抗生剤については副作用の頻度も高く、重篤な副作用もありますので要注意です。

除菌療法の主な副作用としては

① 下痢、軟便          10~30%

② 味覚障害、舌炎、口内炎     5~15%

③ 皮疹(薬疹)          2~5%

その他;腹痛、放屁、腹鳴、便秘、頭痛、頭重感、肝機能障害、めまい、掻痒感等

治療中止となるような程度の強い副作用 2~5%

(下痢、発熱、発疹、喉頭浮腫、出血性腸炎など)

当院での比較的強い副作用としては

薬疹 11例(1.7%)、出血性腸炎 2例(0.3%)と少ない頻度でした。

 

そして治療で特に問題なければ6~8週後に尿素呼気テストもしくは便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査にて除菌判定します。結果陰性であれば除菌成功です。除菌後の再感染のリスクは数%と考えられています。

 

ヘリコバクター・ピロリ除菌療法における除菌の成績(除菌率)

最近の1次除菌における除菌率は70~80%と言われています。裏を返せば4人に1人は除菌に失敗することになります。1次除菌で除菌不成功であった場合はクラリスロマイシンをメトロニダゾールという抗生剤に変更して2次除菌を行います。内服方法は3種類の薬剤を1日2回朝夕で、内服期間も1週間と1次除菌と同様です。2次除菌の除菌率は90%以上と言われているので1次、2次除菌を行えば95%以上の方は除菌可能と考えます。

ちなみに当院の除菌率ですが

胃・十二指腸潰瘍の患者さんへの1次除菌の除菌率は83.4%とまずまずで、

1次除菌で不成功であった患者さんに2次除菌を行うわけですが、2次除菌の除菌率は97.9%と良好でした。

では慢性胃炎の患者さんの保険外(自費)除菌治療の成績はどうでしょうか?なんと除菌率は98.7%とほとんどの方が1度の除菌で成功しているのです。このことは他院の先生にも驚かれることがあるのですが、その種明かしは自費除菌の患者さんは最初から除菌率の高い2次除菌の組み合わせで治療を行ってきたからです。なんだと思われるかもしれませんが以外と2次除菌から行っている施設は少ないのです。ある意味「コロンブスの卵」ですね。保険適応になると自己負担が軽減されるという大きなメリットがありますが、1次除菌から行わなければならないため今までのような高い除菌率を維持することは難しそうです。

そして除菌が成功した後も一件落着ではありません。発がんのリスクも3分の1になってもゼロにはなりません。少なくとも年1回程度は定期的な胃の検査を必ず受けるようにしてください。可能であれば内視鏡検査を受けることをお勧めします。

また除菌後には胃の調子がよくなる患者さんのほうが多いのですが、なかには胃酸過多の症状が出現することがあります。胃の中が大好きなピロリ菌ですが酸には弱いため、自分の周りの胃酸をアンモニアで中和して酸から自分を守っているのです。ピロリ菌がいなくなると胃酸が中和されなくなるため特に除菌後半年ほどは胃酸過多の状態が続くことがあります。そのため逆流性食道炎のような呑酸や胸やけの症状を訴える患者さんもいらっしゃいます。以前はそれら食道炎が修復されたバレット食道から食道腺がんが起きやすくなるとのことで除菌に否定的な意見もあったのですが、除菌後の食道炎の多くは除菌に使用するプロトンポンプ阻害剤などの制酸剤で症状が改善できるため、除菌で胃がんを予防することのほうが有益であると考えられるようになりました。ただ逆流性食道炎の症状がなかなか良くならないような患者さんの場合は主治医とよく相談してから除菌治療をご検討ください。

除菌は出来るだけ胃炎が進まないうちに受けることが望ましいと考えます。

いつでも当クリニックへ気軽にご相談ください。

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